
入居者の死亡後、相続人が全員相続放棄した。室内の残置物はそのままで、連絡が取れる相手もいない。
「勝手に片づけて、後から責任を問われないだろうか」 「撤去費用は結局こちらが持つことになるのか」 「この部屋、いつになったら次の募集をかけられるのか」
管理会社様やオーナー様から、こうしたご相談をいただきます。
相続放棄された残置物は、手順を飛ばすと損害賠償の話になりかねない一方、順番どおりに進めれば片づけまでたどり着けます。
この記事では、残置物の所有権という前提から、適法に撤去する手順、費用の負担先、明け渡しを早める実務までを貸主・管理会社の立場で整理します。
入居者が亡くなったとき残置物の所有権は誰に移るのか

結論から言うと、入居者が亡くなっても、室内に残された家財の所有権が貸主に移ることはありません。ここを取り違えたまま動くと、後戻りできない対応をしてしまいます。
- 賃借権と室内の残置物が相続人に引き継がれる仕組み
- 相続人が全員相続放棄したときに起きること
- 貸主が独断で処分した場合に負うリスク
順に確認していきます。
賃借権と室内の残置物は相続人に承継される
民法896条では、相続人は相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると定められています。賃貸借契約は借主の死亡で自動的に終わるわけではなく、賃借権も、滞納家賃などの債務も、室内の家財も、そのまま相続人に引き継がれます。
つまり、部屋の中の物の持ち主が「入居者本人」から「相続人」に変わっただけで、貸主の物になったわけではありません。鍵を返してもらった、解錠して立ち入ったという事実があっても、所有権は動きません。
実務でつまずきやすいのは、契約の終了と残置物の処理を同じ話として進めてしまうケースです。契約を解除できても、室内の家財が相続財産である以上、処分には別の根拠が必要になります。
相続人が全員相続放棄した場合に起きること
相続放棄をした人は、民法939条により、初めから相続人ではなかったものとして扱われます。全員が放棄すれば、賃借権も家財も引き継ぐ人がいない状態です。
ただし、放棄した人の手がまったく離れるわけではありません。民法940条では、相続放棄をした人がその時点で財産を現に占有しているときは、相続人または相続財産の清算人に引き渡すまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって保存しなければならないとされています。裏を返せば、室内の家財を占有していない親族には、片づける義務まではないと解されています。「放棄したので、そちらで処分してください」と言われてしまうのは、この構造によるものです。
相続人のあることが明らかでないときは、民法951条以下により相続財産は法人として扱われ、家庭裁判所が選任する相続財産清算人が管理と清算を担います。貸主から見ると、話し相手が「相続人」から「相続財産法人」に変わるということです。
貸主が独断で処分した場合に負うリスク
誰も取りに来ない家財であっても、貸主の判断だけで運び出して廃棄するのは避けるべきとされています。所有権が貸主に移っていない以上、後から現れた相続人や債権者から損害賠償を求められる余地が残るためです。処分後は、何がいくつあったのかを貸主側で説明できなくなる点も不利に働きます。
現場で本当に怖いのは、金額の大小ではなく記録が残っていないことです。当社が管理会社様の残置物撤去に入るときは、着手前に室内の全景と品目ごとの写真を撮り、作業後の状態と合わせて完了報告書にまとめてお渡ししています。撤去そのものより、後から順を追って説明できる状態をつくるほうが重要になります。
処分の可否をどう判断するかは「残置物は勝手に処分できる?貸主が知るべき違法リスクと正しい撤去手順を解説」でも整理しています。
相続放棄された残置物を適法に片づけるための手順

やるべきことは3つの段階に分かれます。権利を持っている人を確定させ、引き渡す相手を用意し、契約上の根拠を確認するという流れです。
- 相続人の有無と相続放棄の事実を確認する
- 相続財産清算人の選任を申し立てる場合の流れ
- 契約書の特約やモデル契約条項が使えるケース
ひとつずつ見ていきます。
相続人の有無と相続放棄の事実を確認する
最初にやることは、相続人が本当にいないのかを書面で確かめることです。「息子さんが放棄したらしい」という伝聞のまま撤去に入ると、後から順位の違う相続人が現れたときに立場が弱くなります。
確認は次の順番で進めます。
- 賃貸借契約書と入居申込書から、連帯保証人・緊急連絡先・親族関係を洗い出す
- 判明した親族に連絡を取り、相続放棄をしたかどうかを確認する
- 放棄した方には、家庭裁判所から届く相続放棄申述受理通知書の写しを提供いただけないか依頼する
- 写しが得られない場合は、利害関係人として家庭裁判所へ相続放棄申述の有無を照会する
家賃債権を持つ貸主は、この照会における利害関係人にあたるのが一般的です(管理会社は貸主の代理として手続きを進めるのが通常です)。必要書類や運用は裁判所ごとに案内が異なるため、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に確認してください。
全員が放棄していることを確認できたら、次は引き渡す相手を用意する段階に進みます。
相続財産清算人の選任を申し立てる場合の流れ
相続人がいないことがはっきりした場合、法律上の受け皿になるのが相続財産清算人です。家庭裁判所が選任し、相続財産の管理と清算を行います。2023年4月の民法改正で、それまでの相続財産管理人から名称が変わり、公告の手続きも整理されました。
裁判所「相続財産清算人の選任」によると、申立てができるのは利害関係人または検察官で、申立先は被相続人の最後の住所地の家庭裁判所です。費用は収入印紙800円と連絡用の郵便切手、官報公告料5,582円が案内されており、これとは別に、事案に応じて予納金を求められることがあります。
予納金は相続財産の状況や見込まれる管理費用によって扱いが変わるため、金額を一律に示せるものではありません。負担の見通しを立てたい場合は、申立てを検討している家庭裁判所か、弁護士・司法書士に確認するのが確実です。
清算人が選任されれば、その清算人を相手方として明け渡しと残置物の引き渡しを進められます。ただし選任までには時間がかかり、費用も貸主側が先に負担する形になりやすいのが実情です。回収の見込みが小さい案件では、費用倒れにならないかを含めて検討することになります。
契約書の特約やモデル契約条項が使えるケース
あわせて確認したいのが、賃貸借契約書に残置物の取り扱いに関する特約があるかどうかです。特約があれば処理の根拠になり得ますが、内容が曖昧なものや借主に一方的に不利な定め方は、そのまま通用するとは限らないと考えておくほうが安全です。
より確実な備えとして国が用意しているのが、国土交通省と法務省が策定した残置物の処理等に関するモデル契約条項です。令和3年6月7日に公表されたもので、単身高齢者の入居を想定し、賃借人が生前に受任者と2つの契約を結んでおく形になっています。1つ目が、死亡後に賃貸借契約を解除する代理権を与える解除関係事務委任契約です。2つ目が、死亡から一定期間が経過して契約が終了した後に、残置物の廃棄や指定された送付先への送付を行う残置物関係事務委託契約です。
注意したいのは、これが今まさに起きている案件を解決する道具ではない点です。生前に契約が結ばれていなければ使えません。すでに入居者が亡くなっている案件は前段の手順で進めることになり、モデル契約条項は次の募集からの備えとして活用します。
連絡が取れる相続人がいる場合の書面の整え方は「残置物処分の同意書・所有権放棄書の雛形と書き方【管理会社向け】」で詳しく扱っています。
残置物の撤去費用は誰が負担するのか

「相続放棄されたら、この費用は誰に請求できるのか」。ここが最も気になるところだと思います。回収できる範囲と、実際にかかる金額を分けて見ていきます。
- 最終的に貸主負担になりやすいのが実情
- 連帯保証人・家賃保証会社・保険で回収できる範囲
- 撤去費用はどのくらいかかるのか
最終的に貸主負担になりやすいのが実情
結論としては、貸主が負担する形で終わる案件が多くなります。
理由は単純で、請求できる相手が残らないからです。相続人が全員放棄すれば、滞納家賃も原状回復費用も引き継ぐ人はいません。清算人を立てても対象は相続財産の範囲で、財産が乏しければ配当は期待できず、申立ての費用は貸主の持ち出しになります。
現場では、請求先を詰めるより、部屋を早く貸せる状態に戻すほうが損失を抑えられる場面が多くなります。空室が1か月延びれば、その分の家賃収入がそのまま失われるためです。撤去費用と空室損失を並べて判断を切る視点が要ります。
連帯保証人・家賃保証会社・保険で回収できる範囲
回収の可能性がある窓口は3つあります。
1つ目は連帯保証人です。保証債務は借主の相続放棄によって消えるものではないため、保証契約そのものは残ります。ただし極度額の定めがあることや、保証人自身が高齢・死亡しているケースもあり、実際に回収できるかは契約内容と相手の状況次第です。
2つ目は家賃保証会社です。滞納家賃だけでなく、原状回復費用や撤去費用まで補償の対象になっているかは商品ごとに大きく異なります。事前連絡や所定の書式での申請が条件になっていることが多く、着手前に補償範囲と手続きの確認が必要です。
3つ目は、孤独死保険と呼ばれる少額短期保険です。原状回復費用や家賃損失を補償するものが中心で、加入していれば残置物の撤去費用が対象になることもあります。
いずれも加入の有無より、何が対象で、どの順番で連絡するかで結果が変わります。依頼前に確認を済ませておくと二度手間になりません。
撤去費用はどのくらいかかるのか
費用を左右するのは、間取りそのものより荷物量と搬出のしやすさです。当社が管理会社様・オーナー様からご依頼を受けた残置物撤去の実案件から、4件を挙げます。
| 物件 | 間取り | 撤去量 | 作業 | 総額 | 現場の状況 |
|---|---|---|---|---|---|
| アパート | 1K | 3㎥ | 2名・半日 | 42,000円 | 管理会社様から当日中の空室化のご依頼 |
| アパート | 1DK | 7㎥ | 3名・1日 | 132,000円 | 無断退去・管理会社様立ち会い |
| アパート | 2LDK | 11㎥ | 3名・1日 | 154,000円 | 退去期日が迫り当日中に対応 |
| 戸建て | 3LDK | 16㎥ | 4名・1日 | 253,000円 | 道幅が狭く2トン車が進入できず手運び |
この4件のうち追加費用が出たのは3LDKの1件だけで、理由は道幅でした。トラックを横付けできず、台車と手運びになり、人員と時間が増えています。エレベーターのない上階や坂の途中にある物件でも、同じことが起こります。
写真の段階で搬出経路まで見えていれば見積りの精度は上がります。当社は写真3枚から5枚での概算に対応しており、現地へお越しいただく必要はありません。
費用が大きく膨らむ条件は「残置物撤去費用が100万円になる理由とは?費用相場・戸建て事例・誰が払うかを解説」でも取り上げています。
残置物の撤去費用は、同じ間取りでも荷物量・搬出経路・階数・駐車状況で変わります。相続放棄の案件は貸主負担で終わることが多いだけに、着手前に金額の幅をつかんでおくことが損失を抑えることにつながります。中村トランスポート株式会社は写真だけでも概算をお出しでき、お見積りが確定した後の追加請求は行っておりません。相見積もりのご相談も歓迎しています。対応内容は不動産管理会社様向けのご案内をご覧ください。
明け渡しまでの期間を短くするための実務

ここを押さえておかないと、法的な手順は正しく踏めていても明け渡しが遅れます。撤去の前後で動かせる部分を整理します。
- 撤去を依頼する前にそろえておきたい記録と書類
- 貸主が立ち会えない場合の進め方
- 次の募集を早めるために作業当日にやっておくこと
具体的なポイントは次の通りです。
撤去を依頼する前にそろえておきたい記録と書類
書類が先にそろっていれば、判断でも作業でも止まりません。最低限そろえたいのは次の5点です。
- 賃貸借契約書(残置物・原状回復に関する特約の有無を確認)
- 死亡の事実が分かる資料(ご親族から提供いただける範囲で)
- 相続放棄申述受理通知書の写し、または家庭裁判所への照会結果
- 室内の写真(全景・各部屋・貴重品が置かれていた場所)
- 鍵の本数と受け渡しの記録
写真は撤去前に必ず残します。現場で多いのは、作業後になって「通帳があったはずだ」「指輪が見当たらない」という話が出るケースです。当社では貴重品や重要書類と思われる物は処分せず、写真とあわせてご報告のうえ扱いのご判断を仰ぎます。誰へお渡しするかは相続の状況で変わるため、貸主様・管理会社様と確認しながら進めます。
貸主が立ち会えない場合の進め方
物件は長崎にあり、オーナー様は県外というご相談は珍しくありません。書類のやり取りも重なるため、そのつど現地に足を運ぶ前提では明け渡しが遅れます。
この場合は、鍵をお預かりして立ち会いなしで進める形が現実的です。当社は鍵の受け渡しと保管を記録に残したうえで作業に入り、着手前・作業中・完了後の写真と完了報告書をお送りします。お預かりした荷物は1輸送3,000万円まで、作業中の対人・対物事故は1事故5,000万円までの損害賠償保証を備えています。
ご連絡は24時間受け付けており、写真をお送りいただければ原則1時間以内に対応可否と概算をお返しします。入居予定日が決まっている案件ほど、初動の速さが明け渡し日を左右します。緊急の退去対応は退去・引越しトラブル対応でも案内しています。
孤独死が絡み特殊清掃が必要になる場合の進め方は「孤独死の遺品整理はどう進める?賃貸物件の特殊清掃・費用・大家の対応」で説明しています。
次の募集を早めるために作業当日にやっておくこと
当日の目標は、部屋を空にすることではなく、次の工程へそのまま渡せる状態にすることです。
- 共用部の養生を先に行う(廊下・階段・エレベーターの傷は貸主の管理責任になりやすい)
- 搬出前に全景、搬出後に各部屋の写真を撮る
- 貴重品・書類・遺品にあたる物は分けて保管し、その場で報告する
- 残す設備と撤去する物の線引きを事前に決めておく
- 作業後に完了報告書と鍵の返却記録を残す
4つ目は見落とされがちです。備え付けの照明や物干しまで運び出すと、後から復旧を求められます。逆に、入居者の私物を備え付けと思い込んで残すと、引き渡し前にもう一度撤去が必要になります。判断がつかない物は撤去せず、写真で確認を取るほうが早く終わります。
「もう少し早く相談していれば、募集の開始をここまで遅らせずに済んだ」というお声をいただきます。相続放棄の案件は書類の確認に時間がかかる分、撤去の段取りだけでも先に固めておくと明け渡しが早まります。中村トランスポートは長崎市・大村市・諫早市など即日対応エリアなら最短30分から1時間で現地へ伺い(離島・エリアにより異なります)、鍵のお預かりと立ち会いなしの作業にも対応しています。間に合うかどうかの確認だけでも、残置物撤去のご相談窓口からお早めにご連絡ください。
入居者の死亡と残置物の相続放棄でよくある質問
貸主様・管理会社様から実際にいただくご質問のうち、判断に迷いやすいものをまとめました。ここで扱いきれない内容はよくあるご質問にも掲載しています。
Q. 借主が死亡した場合、残置物はどうなるのですか?
賃貸借契約は借主の死亡では終了せず、賃借権も室内の家財も相続人に引き継がれます。残置物の所有権が貸主に移ることはありません。相続人が判明している場合は、相続人に引き取りや処分の同意を求めるのが基本です。相続人が複数いるときは、全員の意思を確認しておかないと後で争いになりやすいため、やり取りは書面で残しておくと安全です。
Q. 相続放棄をされたら大家は残置物をどうすればよいですか?
まず全員が放棄したかどうかを書面で確認し、そのうえで引き渡す相手を用意します。相続人が誰もいない場合は、家庭裁判所へ相続財産清算人の選任を申し立て、清算人を相手方として明け渡しと残置物の引き渡しを進めるのが原則的な流れとされています。判断が難しい案件や金額の大きい案件では、着手する前に弁護士・司法書士へ相談したほうが結果的に早く収まります。
Q. 相続放棄された残置物の撤去費用は誰が払うのですか?
実際には貸主が負担して終わる案件が多くなります。相続人が全員放棄すると、請求できる相手が残らないためです。連帯保証人の保証債務は借主の相続放棄では消えないため請求できる可能性があり、家賃保証会社や孤独死保険に加入していれば補償の対象になることもあります。いずれも補償範囲と申請の手順が決まっているので、撤去に着手する前に確認してください。
Q. 残置物の所有権を放棄してもらうことはできますか?
連絡が取れる相続人がいる場合は、所有権放棄書や残置物処分の同意書を取り交わす方法があります。ただし相続放棄をした方は法律上は相続人ではないため、その方から同意を得ても処分の根拠としては弱いと考えられます。誰から、どの立場で同意を得るのかを整理することが大切です。全員が放棄している案件では、同意書だけで処分へ進まず、清算人の選任など別の根拠を用意するほうが安全です。
Q. 公営住宅で単身入居者が亡くなった場合も同じ扱いですか?
残置物の所有権が相続人に引き継がれるという基本の考え方は同じです。ただし公営住宅は、事業主体である自治体の条例や要領に沿って手続きが進みます。残置物の移動・保管・処分の手順や保管期間が定められている自治体もあるため、まずは住宅を管理している部署の運用を確認してください。民間の賃貸物件とは、明け渡しの期限や次の入居希望者への対応の考え方が異なる場合があります。
入居者死亡と相続放棄の残置物は手順を踏めば片づけられる
入居者が亡くなり相続放棄された残置物は、貸主の判断だけで処分できません。押さえるべき点は3つです。
- 家財の所有権は相続人に引き継がれ、放棄されても貸主には移らない
- 相続人が誰もいない場合は、家庭裁判所へ相続財産清算人の選任を申し立てて進める
- 撤去費用は貸主負担で終わる案件が多く、連帯保証人・保証会社・保険の確認は着手前に済ませる
一方で、明け渡しを早める実務は先に動かせます。書類と写真をそろえ、撤去の段取りを固めておけば、手続きが整った時点ですぐ部屋を空にできます。
中村トランスポート株式会社は、長崎県内全域と離島で賃貸物件の残置物撤去に対応しています。鍵のお預かりから完了後の写真報告まで、ひとつの窓口でお引き受けします。お電話(0957-53-5656)・LINE・お問い合わせフォームのいずれからでもご相談いただけます。写真を数枚お送りいただくだけでも概算をお出しできますので、まずは今の状況をお知らせください。管理会社様向けの残置物撤去の対応フローもご覧ください。
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、法的な助言ではありません。個別のケースの法的判断は、弁護士・司法書士にご相談ください。

